[房日新聞社客員論説員 古市 一雄]
【9月14日 房日新聞社説「展望台」】
全国紙では、余り大きな扱いではなかったが、地方自治体に大きな問題提起を
している記事があった。それは、何かと言うと、去る5月東京都は、台湾から都内に転入
した人の住民票について、転出入地の記載を「台湾」表記に認めるという事務文書を
各市区町村に通知した。2000年の地方分権一括法の施行に伴い、住民基本台帳の事務は
、完全に市区町村移行したことに伴って、国名の表記は、各市区町村が独自に判断でき
ることとなったが、今までの国の指導、慣例等もあり、台湾表記については、あいまい
さを残していた。市区町村の判断となったものを都が表記について、拘束するのは現状
にそぐわないと判断し、改めて通知したものとされている。一つの通達文書であるが、
都の判断は、全国の都道府県や市区町村に大きな影響をもたらしたものと思っている。
9月に入り、米国の移民局では台湾出身者が移民申請をする場合は、「台湾」記
入に改められたことも報じられていた。これによって、米国では、従来台湾の国籍名
を「中華人民共和国」「台湾 中国」「台湾 中華民国」など表記していたが、これ等
を統一した形になった。
日本の場合は、これまでは、どのように表記していたかと言うと、「中国」、
「中国(台湾)」、「中国(台湾省)」などマチマチであり、頭には、必ず中国が付いてい
た。日中国交回復で、中国は一つと言う中国側の主張を取り入れたことが、大きく影響
しているが、歴史上台湾は、一度も中国に統治されていた事実は存在しない。お隣の韓
国でもハングル文字で「タイワン」と表記している。
ここでの問題は、何を指摘したいかと言うと、現在、道州制や地方分権の議論
が行われつつある。その中では、国は、小さな政府を目指して安全保障や外交などを扱
い、その他地方にできることは、極力地方へ役割分担を移し、地方分権、道州制の実現
を目指しているものと思っている。住民票の表記は、受けてである市町村が、歴史的な
認識事実も含めて、その重要性をもって判断し、行動として説明できる職員人材も必要
なことが分からなければならない。
一方、国にしてみれば、地方分権推進の立場から、権利を地方に委譲したにも
かかわらず、相変わらず国の指導などを仰ぐこととなれば、これでは、任せておけない
。と言う空気も発生する。これ等は、ほんの一例に過ぎないが、要は、地方分権が進む
中で、市町村といえども高度なキャリアが求められており、前述の台湾表記だけを取っ
ても、アジア史における中国と台湾の関係、我が国と台湾の関係、さらに国内法との関
係等々、様々な判断が求められることとなり、地方分権時代だからこそ、歴史認識を含めたしっかりした判断が必要でもある。
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