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  • 2014年8月22日金曜日

    「台湾の声」【台湾レポート】台独党綱─独立凍結論の背後にも中国の影 

    【台湾レポート】台独党綱─独立凍結論の背後にも中国の影 

    【エコノタイワン:8月号】より転載


                迫田 勝敏(ジャーナリスト)



     台湾最大野党、民進党の一部に「台湾独立」の旗印を降ろそうという主張が根強くある。7月の
    党大会に相当する全国党員代表者大会(全代会)でそんな提案がされ、議論の時間がないと中央執
    行委員会で扱うことにし、事実上の棚上げになった。自分は台湾人だという台湾意識が広がってい
    る今、なぜそんな提案なのか、背景を探るとここにも中国の影があった。

    ◆台独だから選挙で勝てない?

     提案したのは前立法委員の郭正亮と党中央評議委員の陳昭南ら。民進党は立党直後の1986年11
    月、「台湾共和国の建設」を記した党基本綱領を制定した。1991年にはそれを「主権独立民主の台
    湾共和国を建設」と修正した。「台湾独立(台独)党綱」と呼ばれるもので、提案はこの綱領を
    「凍結」しようというものだ。

     凍結論は陳水扁時代からある。その理由は、一言で言えば「台独党綱があるから選挙に勝てな
    い」ということだ。落選した候補者が自分の力不足を「台湾独立論」のせいにしている感もなくは
    ない。台湾が独立に傾けば、すぐに中国が反発し、独立に動けば「武力行使も辞さない」といきり
    立ち、米国は「現状を変えるな」とあからさまに干渉する。だから選挙民は「現状維持」に萎縮
    し、民進党離れになる─という論理だ。経済界には台独党綱があるから中国とのビジネスがうまく
    いかないという声もある。そんなことはない。民進党政権時代も中台経済交流は発展してきた。

     2002年8月、当時の総統、陳水扁が台湾と中国はそれぞれ一つの国とする「一辺一国」論を打ち
    出した時、中国はもちろん反発したが、民進党内にも「これでは選挙に勝てない」と異論が出た。
    実際、2004年の総統選挙は銃撃事件の同情票もあって辛勝。陳水扁苦戦はあるいは「一辺一国」論
    も一因だったのかもしれない。

    ◆独立は民進党の核心価値

     「だから台独党綱を凍結しよう」というのに対し、多くは大反対。その代表的な意見が元行政院
    長、游錫●の「台湾独立は民進党の核心価値。民進党が台湾独立綱領を降ろしたら国民党とどこが
    違うんだ!」。主席の蔡英文自身、「台独党綱は我々の現在の民進党員と台湾人民の追及と理想」
    と断言している。

    ●=方方の下に土

     確かに民進党は創立当時から「台湾共和国」の夢を振りまき、それが党員だけでなく社会運動団
    体の支持も集めてきた。それらの団体はそれぞれに台湾独立に向けた様々な運動を展開し、民進党
    の支持母体を広げる役割も果たしてきた。それだけに「凍結するならすればいい。そうすれば多く
    の団体がこの領域(民進党支持)から撤収する」(公投護台湾連盟総召・蔡丁貴)と反発は強い。

     加えて民進党は1999年5月に「台湾前途決議案」を採択し、「台湾はすでに独立主権国家であ
    り、その前途は住民投票で決める」と、台湾独立をすでに既成のものとして、敢えて正面から主張
    しないようにした。蔡英文は全代会後、この決議文が「台湾の人々のコンセンサスになっている」
    と明言した。もう独立は言わなくとも事実上、独立している。台独はもう「凍結」しているのだ。

    ◆寝た子を起こす凍結台独

     この時点で「凍結台独」というのは、あらためて統一か独立かの統独論争を再燃させることにな
    る。寝た子を起こすようなものだ。なぜ、寝た子を起こすのか。社会運動団体の幹部は「中国とい
    ろいろ関係がある人たちがいますからね」と言う。なんとしても台湾を中国のものとしたい中国は
    台湾独立を認めない。だから国民党だけでなく、次の総統選で勝ちそうな民進党にも「独立しな
    い」と明言してほしい。そんな中国の意向を受けて提案をしているのだと幹部はみているのだ。中
    国の工作はすでに民進党内にも及んでいる…。

     実際、中国国務院台湾事務弁公室のスポークスマンは民進党の「凍結台独」提案の棚上げを受け
    て「台湾独立の主張に前途はない。台湾の民意からかけ離れており、双方の関係を損ねる」と談話
    を発表した。仕掛けが失敗し、がっかりというところだろう。

     だが、「民意からかけ離れている」というのは、むしろ中国側だ。民進党が独立綱領を掲げた立
    党時、自分は「台湾人だ」と主張する人は少数だった。それが民主化の李登輝時代、さらに民進党
    の陳水扁時代を経て、台湾意識は大きく広がり、新台湾智庫の最新調査では82.9%の人がはっきり
    と「自分は台湾人です」と答えている。さらに「台湾の未来は台湾人2300万人が決める」ことを支
    持している。

    ◆自分の前途、自分で決める

     なによりも時代の変化を雄弁に物語るのはこの春の「太陽花学運」(ひまわり学生運動)だ。学
    生たちの多くは国民党の馬英九政権下、このままいけば「台湾は中国に呑み込まれてしまう」と立
    法院の議場占拠に走った。その学生たちの呼びかけに応じて50万人が総統府前に集まった。「自分
    の前途は自分で決める」という潮流は香港に飛び火し、空前の反中国デモを演出した。台独凍結提
    案には独立意識を強める人々の感情を凍結したいという中国の焦りもうかがえる。(敬称略)







    『台湾の声』http://www.emaga.com/info/3407.html

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