徹底論破:中国政府の「台湾は中国の一部」のウソ
台湾研究フォーラム会長 永山英樹
「台湾は中国の一部」などと言うのは、日本、韓国、フィリピンを「中国の一部」だと言うのに等しい。もし中国がそう主張したなら、日本人、韓国人、フィリピン人、そして国際社会は反撥するはずだ。そして中国がそのような主張に立ち、武力併合の準備のために軍備拡張に走ったとしたなら、国際社会は断じてそれを座視しないはずだが、しかしそれが台湾となると、各国、そして国際世論はほとんど口をつぐむどころか、その主張を受け入れて、この国の国連加盟すら認めようとはしない。
それは中国の圧力を受けてのものと言えるが、そう簡単に圧力を受け入れてしまうのは、やはり「中国の一部」との主張を信じてしまっているからなのだろう。じっさい日本の国民の多くも、それを信じて疑わないでいるはずだ。
しかし「中国の一部」説は、まったく根拠のない作り話なのだ。
台湾がどこに帰属するかと言うのは、各国の領土を画定する国際法(国際条約)の問題であるが、中国がこの観点から、どのように台湾を「中国の一部」と位置づけているのか(でっち上げているのか)については、中国で台湾併合工作を司る国務院の台湾事務弁公室が二〇〇〇年二月に発表した「一つの中国の原則と台湾問題」(所謂「台湾白書」)なる文書を見ればいい。
これは李登輝総統が「二国論」を世界に向けて打ち出し、台湾と中国は「特殊な国特にとの関係」と訴えたことに危機感を覚えた中国政府が、「国際社会に向けて一つの中国の原則を堅持する中国政府の立場と政策を述べる」ことを目的に書かれたものである。
そしてそのなかの「一つの中国と言う事実および法理的基礎」と言う項目では、「一八九五年、下関条約に基づき、台湾は清国領から日本の支配下へ」→「一九四五年、カイロ宣言に基づき、台湾は日本の支配下から中華民国領へ」→「一九四九年、中華民国の消滅と中華人民共和国により、台湾は中華民国から中華人民共和国の領土に」と言う台湾の地位の歴史的変遷をたどりながら、「一つの中国」の原則の「揺るがすことのできない法理的基礎」を事細かに解説している。
そしてこの「法理的基礎」なるものこそが完全な事実歪曲の産物なのであるが、このことを指摘する人は少ない。
そこでここでは、その本文中から重要なポイントをすべて摘出し、その一つ一つを論破し、中国の「一つの中国」の主張がまったく事実に反していることを証明したい。
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�<一八九五年四月、日本は中国侵略戦争により清朝政府に迫って不平等な「馬関条約」を締結させ、台湾を占領した>
ここで言う「中国侵略戦争」とは日清戦争のことであり、「馬関条約」とは同戦争の媾和条約である下関条約の中国側の呼称だ。言うまでもなく日本はこの条約で、清国から台湾の永久割譲を受けたわけだが、「占領」と言う言葉を見ると、どうもここでは台湾割譲は無効のものであったと言いたいらしい。
たとえば「清国政府に迫って」や「不平等な」も条約だと指摘するのは、下関条約が日本の脅迫の下で調印を余儀なくされた条約であって、無効であると強調するものである。
しかし日本側が清国側を脅迫をしたとの記録証拠はどこにあるのか。仮に清国の全権李鴻章が脅迫を受けて調印したのなら、清国政府は批准を拒否することができたのに、それをしていないのである。また「不平等」な条約とは言っても、この世に戦勝国と敗戦国との平等な講和条約などあるのだろうか。
下関条約は完全に有効なものとして日清間で締結されたものである。そしてこれによって台湾は中国の領土から切り離され、正式に日本の領土になったのだ。
�<一九三七年七月、日本は中国侵略戦争を全面的に発動した。一九四一年十二月、中国政府は「中国の対日宣戦布告」のなかで、中国は馬関条約をふくむ中日関係とかかわりのあるすべての条約、協定、契約を廃棄し、台湾を取り戻すことを各国に告げた>
この「対日宣戦布告」とは大東亜戦争のときのものだ。たしかに中華民国は下関条約をも含むそれまでの日本との条約の廃棄を宣言したが、条約でも廃棄できるものとできないものがあり、すでに割譲している領土の原状回復はできないとするのが国際法上の通説である。なぜならそのようなことは現実として不可能だからだ。
以上は、何が何でも台湾を中国領土と主張したい中国政府が、「日本の台湾統治は非合法であり、よって台湾は完全なまでに中国のものだ」と宣伝するための法理の歪曲であるが、そこには「国際法の常識」と言うものが一切無視されているのである。
�<一九四三年十二月、中米英三国政府が発表した「カイロ宣言」は、日本は東北地方、台湾、澎湖列島などを含む中国から盗取したすべての地域を中国に返還しなければならない、と規定している。一九四五年、中米英三国が共同で調印し、のちにソ連も参加した「ポツダム宣言」は、「カイロ宣言の条項は履行せらるべし」と規定している。同年八月、日本は降伏し、「日本の降伏に関する条項」の中で、「ポツダム宣言の諸項に定められた義務を誠実に履行する」ことを受諾した。十月二十五日、中国政府は台湾、澎湖列島を取り戻し、ふたたび台湾に対する主権行使を回復した>
大東亜戦争中、ルーズベルト、チャーチル、蒋介石と言う米英中の首脳が対日戦争方針を話し合うためカイロで会見し、その結果発表された「カイロ宣言」には「日本の中国への台湾返還」が謳われ、その「カイロ宣言」の規定の履行を求める「ポツダム宣言」の履行を、日本は休戦協定である降伏文書の調印を通じて誓約し、それを受けて中華民国は台湾の領有権を取り戻したのだ、と主張しているわけだが、実際には中華民国が終戦後、台湾の領有権を日本から譲り受けたと言う事実はないのである。
たしかに中華民国は一九四五年の「十月二十五日」、台湾における日本の軍司令官兼総督である安藤利吉が降伏文書に署名する際、台湾および澎湖列島の領有権を中国側に移譲せよとの命令書に承諾のサインを強制したが、一軍司令官(一総督)に領土割譲の権限などないのである。
ここでは一切触れられていないが、台湾の戦後の地位を決定したのは、一九五一年に日本と連合国四十八ヶ国との間で調印されたサンフランシスコ媾和条約である。それが発効する五二年四月二十八日まで台湾は、法的にはなお日本の領土だったのだ。
そもそも戦争の結果にともなう領土の変更は、休戦協定ではなく媾和条約によるものであるとするのが国際法の常識で、事実、サンフランシスコ媾和会議で連合国は、「カイロ宣言」も「十月二十五日の台湾割譲」も一切問題にすることなく、日本が台湾および澎湖列島に関する主権を放棄することを取り決めた。
なお日本による放棄後の台湾の新たな帰属先については、同条約では何の取り決めも行われず、台湾の法的地位未定の状態は今日まで続いているのである。つまり中華民国であれ中華人民共和国であれ、一度たりとも台湾の領有権を手にしていないのだ。
それでは当時すでに台湾を支配していた中華民国はどうしたかと言うと、当時すでに中華人民共和国が存在し、「二つの中国」並立の状態であったため、そうした複雑な事情から、いずれも媾和会議には招かれなかった。その代わりに中華民国は単独で日本と日華平和条約を締結したが、同国は同条約において、サンフランシスコ条約における日本の台湾放棄の決定をはっきりと追認しているのである。
もっとも中華民国政府は台湾の住民に対してはそのことを隠し、あくまでも「カイロ宣言によって台湾は中国に復帰した」と喧伝し続けた。それは台湾の不法支配を継続するためには当然とるべき措置だった。 なお中華民国政府が、台湾の法的地位はカイロ宣言ではなくサンフランシスコ条約によって決定されるべきであると認めたのは、二〇〇六年になってからのことだ。同年から使用された高校の歴史教科書の検定で、台湾の法的未定状態を記述した教科書を、教育部(文科省)が合格させたのだ。
一方中華人民共和国は、中国がサンフランシスコ条約に調印しなかったことを理由に、同条約の無効を訴え、あるいは未調印を理由に、同条約は中国には拘束力がないとも主張しているが、そのような「超法規的」な言い分が世界に通用するわけがない。
�<一九四九年十月一日、中華人民共和国中央人民政府が成立し、中華民国政府にとって代わって全中国の唯一の合法政府となり、国際社会における唯一の合法代表となった。中華民国の歴史的地位はここに終わりを告げた。これは同一国際法の主体が変わっていないという状況のもとで、新しい政権が古い政権にとって代わったものであり、中国の主権および固有の領土・領域はこれによって変わっておらず、中華人民共和国政府が台湾に対する主権をふくむ中国の主権を完全に享有し、これを行使するのは理の当然である>
これは中華人民共和国が中華民国の承継国家として誕生した以上、中華民国の領土となった台湾も、中華人民共和国は継承しなければならないと言う理論で、これこそが台湾を統治したことのない同国が台湾の領有権を主張する根拠である。しかし少なくとも台湾は、中華民国の占領は受けても、その領土になったわけではない以上、この論理は最初から破綻しているのである。
以上のように中国政府が掲げる「台湾は中国の一部」であることの「法理的基礎」なるものは、台湾が中国の領土ではない以上、すべてが最初から破綻していると言うことを、国際社会は見抜かなければならないはずである。そして台湾問題は決して中国の内政問題などではなく、中国の領土拡張、他国への侵略、併呑と言う、国際社会が関心を寄せるべき重大な国際問題であるということも知らなければならない。もし中国の領土拡張を目的とした法理歪曲を許してしまったなら、人類の平和を求める今日の国際法秩序は崩壊しかねなくなるだろう。
そしてとくに日本は、戦後の台湾領有権問題の最重要の当事国である。言い方を換えれば、この問題の真相を一番よく知っているのが日本なのだ。ところが中国の法理歪曲の宣伝の前で、沈黙を保っているのも日本なのである。
この一点に関しても、日本人はもっと真剣に考える必要があるのではないだろうか。
「台湾白書」の「一つの中国と言う事実および法理的基礎」の項はさらに続く。だが以下からは「一つの中国」の「法理」ではなく「事実」に関する記述である。要するに中国の「宣伝」にかかっては、「法理」と「非法理」との区別などどうでもよく、重要なのは大声で、執拗に、国際社会に向けて自己に有利な「宣伝」を行うことだと考えている。
これから挙げる中国の主張は今日よく耳にするものだが、すべてが歪曲された「法理」の上に立っている以上、一つとして正しいものはない。
�<国民党支配集団が台湾に退いてから、その政権は引き続き「中華民国」と「中華民国政府」の名称を使っているとはいえ、中国を代表して国の主権を行使する権利がとっくに全くなくなり、実際には終始中国領土における一つの地方当局にすぎない>
これは台湾の「中華民国政府」の存在を否定する中国政府の基本的姿勢を表明したものだ。たしかに中華民国は中国を代表する権利を喪失していると言わざるを得ないが、これを「中国領土」における「地方当局」とするのは誤りだ。なぜなら台湾は中国領土などではないからだ。
�<一つの中国の原則を堅持する中国政府の厳正な立場と合理的な主張は、ますます多くの国や国際機構の理解と支持をかちとり、一つの中国の原則は国際社会に普遍的に受け入れられるようになった。一九七一年十月、第二十六回国連総会は二七五八号決議案を可決し、台湾当局の代表を追い出し、国連における中華人民共和国政府の議席およびすべての合法的権利を回復した>
ここで「一つの中国の原則が受け入れられた」と言うのは、国際社会において中華民国に代わって中華人民共和国が支持され承認されるようになったと言う意味である。国連総会で「台湾当局の代表」が追放されたことを強調するのは、中華民国は非合法的であり、台湾は中華人民共和国のものであると印象付けたいためだ。
だが実際には、中華民国が「中国代表」としての議席を中華人民共和国に奪われたと言うだけの話であって、台湾の帰属問題に関わるものではまったくない。
ちなみにこの二七五八決議案は周恩来が起草し、アルバニアが提出したもので、そこには「蒋介石の代表を国連および全ての国連機関から即時追放する」と書かれている(「台湾当局の代表を追放」ではない)。この「蒋介石の代表」とは、「国際法で認められた領土を持たない亡命政権の代表」と言う意味だ。つまり周恩来は中華民国追放を確実に実現するため、それを「領土もない非主権国家だ」と強調したわけである。だが台湾を中華民国の領土でないとするなら、それは「台湾の法的地位未定論」に立っていることになる。事実、この決議の採択直前、周恩来はキッシンジャーに「もしこれが通れば台湾の地位は未定と言うことになる」と語っている。
�<一九七二年九月、中日両国政府は共同声明に署名し、外交関係の樹立を宣言するとともに、日本は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることについての中国政府の立場を十分理解し、尊重し、かつポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持すると表明した>
これにはどのような宣伝効果があるのだろうか。第一点は、日本政府がこの日中共同声明で「中華人民共和国を中国の唯一の合法政府」と承認したことを強調することで、日本があたかも台湾を中国領土と承認したかのように印象付けることが可能だ。
だが日本政府は国際法上の「一国一政府」の原則に従い、「中国唯一の合法政府」を自認する中華民国と中華人民共和国の二政府のうち、後者がそれであると「承認」しただけであって、台湾の帰属先は問題にしていないのである。なぜなら日本は最初から、台湾を中華民国のものとも中華人民共和国のものとも認めていないからだ。だから後段において台湾が中華人民共和国の「領土の不可分の一部」であるとは「承認」していない。
もっとも日本政府は「中国領土の一部」とする「中国政府の立場」には「理解し尊重」し、「ポツダム宣言第八項規定(カイロ宣言の条項=台湾返還の履行を求めている)に基づく立場を堅持する」と表明はしている。しかしこれは中国の「立場」を理解し尊重すると言っているだけであり、あるいはカイロ宣言の規定を履行するべきだとの立場を守ると言っているだけであって(もっとも台湾を返還するにも、日本はすでに台湾を放棄しているため不可能)、やはり台湾を中国領土の一部であるとは承認していないのだ。
ただ「理解し尊重する」と表明は、日本が「承認した」と受け取られかねない響きがある。よってそれの強調も、有効な宣伝となるのである。
事実こうした宣伝の結果、多くの日本人は、日本政府は台湾を中国領土と認めていると誤認識するに至っている。
�<一九七八年十二月、中米両国は国交樹立コミュニケを発表し、アメリカは「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し」、「中国の立場、すなわち中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であることを認める」と表明した>
米国も中華人民共和国を中国唯一の合法政権であると承認したに過ぎないのだが、やはり日本の場合と同様、台湾の領有問題における承認と受け取られやすい。なお米国が「台湾は中国の一部」と「認める」と表明したと言う事実は一切はなく、完全な作り話だ。
たしかにこのコミュニケの中文版には「米国政府は台湾は中国の一部であるとの中国の立場を『承認』する」とあるが、英文版は「……中国の立場を『認識』(acknowledge)する」である。「acknowledge」は中国語では「認識到」だが、「承認」とすることもできる。そこで起草段階で中国側は、「acknowledge」の翻訳としての「承認」を用い、米国側の了承を得た。だがコミュニケ発表後、中国は「承認」は「recogniz」だと言い出し、「米国は台湾を中国の領土だと承認した」と宣伝しているのだ。「ウソは言ったが勝ち」こそ中国の戦略思想だ。 �<現在、中華人民共和国と外交関係を樹立した国は百六十一カ国を数えているが、これらの国はすべて一つの中国の原則を認めるとともに、一つの中国の枠内において台湾との関係を処理することを約束した>
まるで世界の多くの国が、台湾は中国の一部であると認めているかのような一文だが、もちろんそのようなものではない。各国が「一つの中国の原則」を認めているのは事実だが、それはあくまでも日米と同様、「一つの中国政府」しか承認していないと言うことなのである。そして「一つの中国の枠」があるため、もう一つの「中国政府」である台湾の中華民国政府とは国家関係は結べないと言うだけの話である。ではなぜ各国は台湾を中国の一部と承認しないのかと言えば、それが事実に反するからに他ならないのだ。
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